7月13日、愛知県の北名古屋市総合運動広場で、全国出場する2チームの壮行試合が行われた。愛知県王者の北名古屋ドリームスと、京都府王者の伊勢田ファイターズ。友好関係にある両軍は、手の内を隠すこともなく、仮想「全国大会」として本気で戦った。そして迎えた8月の本番。それぞれ1回戦、2回戦を勝ち上がり、3回戦で顔を合わせると、1点を争う緊迫の好勝負を展開した。
(写真&文=鈴木秀樹)
■3回戦/みどりと森球場
◇8月15日▽第3試合
[愛知]3年連続7回目
北名古屋ドリームス
000000=0
00010 X=1
伊勢田ファイターズ
[京都]2年ぶり2回目
【北】坪井、竹井-大久保
【伊】藤本、夏山、藤本-夏山、石川、夏山
二塁打/藤本(伊)
【評】粘り強く投げ続ける、両軍の投手の力投にバックも堅守で応える、見応えある投手戦。北名古屋先発の坪井心汰(5年)が毎回、走者を出しながらも要所を締め、3イニングをゼロで切り抜けると、伊勢田先発の藤本理暉も1、2回に死四球で走者を出しながら、バックの堅守にも助けられ、さらに調子を上げた。均衡を破ったのは伊勢田。4回、先頭の五番・栗山雄吾が四球で出塁し、捕逸と赤穂空舞のバントで三進。5年生コンビでお膳立てすると、二死から佐藤駿が右前に適時打を放ち、待望の先取点を奪った。伊勢田の藤本は無安打投球を続け、5回途中で夏山淳主将のリリーフを仰いだが、最終6回二死一塁の場面で再登板。ノーヒットリレーを完成させ、1点を守り切って勝利を挙げた。(了)
伊勢田は藤本(上)、北名古屋は5年生の坪井(下)。先発した両左腕がゲームをつくった
0対0の4回裏、伊勢田は四球と捕逸、5年生・赤穂の犠打(上)で一死三塁に。北名古屋は岡監督がタイムを取ってマウンドへ(下)
4回裏一死三塁から伊勢田の八番・佐藤が右へ弾き返し(上)、三走の5年生・栗山が生還(下)。これが決勝点に
―Close-up Winner―
「ここで戦おう」約束の場で競り勝つ
いせだ
伊勢田ファイターズ
[京都]
昨年末にはポップアスリートカップ(くら寿司トーナメント)で初優勝を果たすなど、躍進目覚ましい伊勢田ファイターズが、大会準優勝経験もある強豪・北名古屋を下して、2度目の大会出場でベスト8入りを決めた。
先発の藤本理暉(=上写真左)は、今大会でも川和シャークス(神奈川)との1回戦、秦スポーツ少年団(高知)との2回戦で計6イニング余りを投げ被安打わずか1、無失点の好投を続けていた。この試合でもノーヒット投球を続けていたが、「(藤本は)今日は序盤に少し、ボールが荒れてましたね」と幸智之監督。初回、2回と四死球で走者を出していた。
「緊張というわけじゃないんでしょうが、地に足がついていない立ち上がりでした。徐々に立て直し、調子は上がっていましたが、球数が増えてしまった。5回途中までで52球。あとをどうつなぐか、悩ましかったですね。タイブレークも頭にありました。北名古屋さんの強さは、よく分かっていますから」
大会直前の7月中旬にも練習試合を行うほどの交流がある両チーム。悩んだ末に選択したのは、藤本の球数制限まで、20球足らずを残しての投手交代だった。
そして、「最近はすごく調子が良かった。ハマるんじゃないかと思ったんです」という夏山淳主将(=上写真)へ。バトンを受け取った右腕は、「(北名古屋の選手らと)この大会で対戦しようと話していたんです。対戦できてうれしかった」と笑顔を見せ、「全力で抑えるつもりで投げました」と躍動のマウンドを振り返った。
1対0のまま最終6回の攻防へ。二死後に四球を出したところで、再び藤本がマウンドに上がり、「最後は気合で投げました。三振を取るつもりで」と渾身の速球で最後を締めくくった(結果は一ゴロ)。
5年生の二番・幸(上)は2安打。守っては、同じく5年生の山本との二遊間コンビ(下)で勝利に貢献した
初戦敗退に終わった初出場の2年前から、大きく前進しベスト8入り。
「2年前に初めて出させてもらって以来、北名古屋さんをはじめ、新家スターズさん(大阪)や長曽根ストロングスさん(同)、多くのチームと交流させていただいています。その中で、京都の学童野球に何が足りないのかを学びながら、ここまで来ることができました」
幸監督は感慨深げに振り返り、続けた。「すでに未知の世界ですが、今後も一戦ずつ、大切に戦っていきたいですね」──。
―Good Loser―
無安打でも、付け入るスキあった!?
きたなごや
北名古屋ドリームス
[愛知]
朝の雨の影響で時間が押し、ナイターでゲームセットを迎えることになった第3試合。「ウチの試合はそういうことになってるんですかね?」。昨年大会ではナイターでのサヨナラ勝ちも、サスペンデッドゲームからの延長負けも経験した北名古屋ドリームス。岡秀信監督はそう言って、笑顔を浮かべた。
伊勢田の先発・藤本を絶賛。「少なくとも、この大会で、ここまでに対戦した中では一番のピッチャー。ひょっとしたら、大会一かもしれませんよ。それほど素晴らしい」。そして「なにせ、こっちはノーヒットですからね…」と言い、天を仰いだ。
2回の攻撃では二走が間一髪で飛び出してしまい、挟殺された
「ウチの選手は伊勢田さんの選手たちみたいに『行ったるわ!』ってバットを振り切る、思いきりが足りんのだわ」。コーチ陣からは、そんな声も飛ぶ。ただ、付け入るスキがなかったのかといえば、そうとも言い切れない。再び岡監督──。
「序盤は藤本クンも結構、苦労してましたからね。荒れ気味で球数も多かったし、フォアボール、デッドボールで走者が出たのも事実。こちらも『待つ野球』ではなく、攻めていったというのもあるんですが、あそこでもう少し、足を使って攻めることはできなかったか…。終わってみると、そんなふうにも思いますね」
お互いによく知った相手で、ロースコアは想定内。
「1点の勝負になるかもしれない、とは思っていたんですよね」
1回戦で2安打の九番・加藤航大(上)も、1回戦と3回戦で先発した坪井(下)も5年生。来年は4年連続の全国出場へ
ここまで、世名城ジャイアンツ(沖縄)との1回戦は2対0、上市ベースボールクラブ(富山)との2回戦は3対2と、いずれも接戦を勝ち上がってきただけに、ロースコア決着は望むところだったのかもしれない。それだけになおさら、の悔しさもあるのだろう。
「相手の1点も、ワンヒットですからね」
悔しい敗戦から切り替え、地元に帰り、次の戦いへ。涙を拭いた北名古屋ナインは、伊勢田ナインのいる一塁側選手出口へ。安藤玄気主将は伊勢田・夏山主将に、これまで対戦したチームから受け継いできた千羽鶴を手渡した(=下写真)。
「優勝してください!」と安藤主将。「ここで会おう」と誓い合った約束の一戦を終え、北名古屋ナインはすがすがしい笑顔に戻り、帰路についた。